A.P.J.
(Acoustic Progressive Jazz)

VGDBRZ0022 ¥3,150(税込)
VEGA Music Entertainment Inc.

野田誠司氏によるレビュー(ROCKJAZZ.COM!のメールマガジンより) 

2006.03.08
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    『e』 A.P.J. 難波弘之/水野正敏/池長一美
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難波弘之さん(日本屈指のキーボード奏者)から難波さんのピアノ・トリオ
A.P.J.(Acoustic Progressive Jazz )の新譜が出るとの連絡をご本人から頂
き、早々、サンプル盤を送って頂いた。
トリオ名の通り、シンプルなアコースティック編成、にも関わらず先進的、そ
してジャズだ。リリース・ポリシーが良心的かつ音楽への情熱を感じるベガ・
ミュージックエンタテイメント(以下VME)よりリリース。実は、ここから
のリリースされた知人の市原康氏(ブラシ・スティックの天才ドラマー)のリ
ーダー・アルバム『TRIO』も以前、メルマガで紹介した。そして来週の当方
の企画ライヴで庄野真代さんとお会いするかもしれないのだが、その庄野さん
の最近作もVMEからリリースされていることを知った。業界は狭い・・・と
いうより、健全なところに真摯な音楽家が集まってくるといえばいいだろうか。

 難波さんから事前に「実は、パトリック・モラーツがフライヤー用に詳細な
感想を書いてくれた」と伺っていた。サンプル盤とそのフライヤーがVMEよ
り届き驚いた。普通のライナー・ノーツ並に長い解説文だったのだ。パトリッ
ク・モラーツは、Refugee(キース・エマーソンがELPの前に在籍したナイスの
リズム隊とモラーツが結成したトリオ)、YES、Moody Bluesのキーボードを歴
任してきたプログレ・キーボード奏者の王道を歩んできたような人だが、プロ
グレ・キーボード奏者の中でも一番、感覚的な人でもある。技巧派でありなが
らそれに勝って感覚的でもあるわけだが、文章も然り。音楽理論的な解説は避
け、楽曲の展開と雰囲気を上手く伝えてくれており、わかりやすい。さて困っ
た。本業でない演奏者のモラーツの文章よりも本業がライターである僕の文章
が「音」を上手く伝えなくてはならない。(ちょっと汗:笑)

 難波さんの演奏と音楽は、海外のロック・キーボード奏者の中では、パトリ
ック・モラーツが一番近いかな、と以前から思っていた。時にかなり技巧的で
あり、時に非常に感性で「歌っている」演奏があるという面でだ。違うところ
は、モラーツの時折、突っ走るような狂気な部分(YES『リレイヤー』での
演奏など)だろうか。難波さんの演奏は良い意味で器用で、バンド形態、ソロ
・ワーク等、その演奏するシーン(テーマ)で変幻自在なところがある。しか
も「遊び」を許された部分では、自身のスタイルがハッキリ出てきたりする。
僕が個人的に「難波弘之の音楽」が好きなのは、音楽が好きであることが演奏
や楽曲から滲み出ているからだ。もう大分昔、難波さんがNHK教育TVで音
楽の講座を担当されていたときに、見た目はロックのキーボード奏者、でも優
しい先生。しかし、番組でバンド(たしかセンス・オブ・ワンダーだったと思
う)での演奏となると緊張感のある奏者に変わるというところが随分と印象に
残っている。ゲーム・ミュージックも古くから担当されていて、RPG「YS
(イース)」(日本のRPGの礎となった作品で今も続いている)の音楽の難
波弘之アレンジというCDも存在しており、実は持っていたりする。たとえば、
センス・オブ・ワンダーから難波ファンになった人もいれば、「YS」難波弘
之アレンジ盤CDからファンになったという人もいるだろうし、野獣王国から
という人もいるだろう。あるいは、金子マリとバックスバニー時代(1975)から
という熱烈ファンもいるだろう。センス・オブ・ワンダーや「YS」のでの演
奏を聴くと難波弘之=プログレと結び付ける人も多いと思うがバックスバニー
や山下達郎バンドのキーボードを歴任したり、たしかなにかの番組で「ファン
クっぽい音楽も好きだ」と仰っていたように思う。そういう間口の広さが「難
波弘之の音楽」なのだと思う。

そして、A.P.J.では、アコースティックでプログレッシヴなジャズを演奏。1
曲づつの紹介はパトリック・モラーツ執筆のフライヤーに委ねるとして、全体
的なことを言うと、まず普通のアコースティック・ジャズではない。ピアノ、
ベース、ドラムというジャズでは当たり前のインスト編成にも関わらず、そう
いうジャズと同じには聞こえてこない。それは、A.P.J.の音楽がいわゆるジャ
ズにありがちなインプロヴィゼーションに突っ走るのではなく、しっかりと構
成された上での自由な演奏、楽器同士の語らい、そして何より演奏者の美学の
が次の音色を決めていくかのように空間を醸し出しているからだ。しかし、限
りなくジャズの近くにありながら、聴き終わった感触がジャズっぽくない。そ
れは、多彩なセッションをこなしてきた難波弘之の気品溢れるピアノ、世界各
地での演奏経験を持つ池長一美の独特な「空間の美学」のようなドラミング、
耳を凝らすと実は軽妙に鳴り響き演奏全体をキュッと引き締めている水野正敏
のウッドベース。さらには、通常のジャズではあまり耳にしない、反復と微妙
な変化が知的でミニマルな演奏として聴こえ、それと交互に現れる優しく馴染
みやすいメロディ。どこを基準に聴くかで聴く度に新しい発見の楽しみがある。
実際は技巧的な演奏をしているにも関わらず、聴きやすく親しみやすい演奏と
しても楽しめるのは、全体がメロディアスであるからだ。

 難波さんのアコースティック・ピアノに対して、強引にジャズ・ピアニスト
を引き合いに出すとすると、マッコイターナーというよりはビル・エヴァンス
辺りだろうか? 繊細なピアノのタッチは、良い意味でジャズと意識しないで
も楽しめる。ポピュラー・キーボード奏者がある程度、キャリアを積んでいく
と、ピアノに帰っていくことが多い。やはり、タッチで微妙な感情表現ができ
ることと生音の響きは、デジタル・ピアノでは表現仕切れない滑らかさと厚み、
潤いがある。池長一美のドラム/パーカッションも面白い。音量的にはとても
ひかえ気味なのだが、ちゃんと聴こうとするとピアノやベース音とは被らずに
かなりの自己主張をしている。耳を凝らすと色々なリズムや音色が聞こえてく
る。

そしてバラバラに拾うように聴いてみた各楽器の音をすべて一緒に聴いてみる
と、万華鏡を見るようなきらびやかさを帯びてくる。3人というシンプルな演
奏であってもだ。音楽はだから不思議で楽しい。聴く人の感性や聴くツボのよ
うなものでも、人それぞれ大きく左右する。そこがまた楽しい。

実は、現在の日本ではジャズ・シーンがかなりやばい状態。ジャズのハコも年
々潰れているし、CDの売上げも他のジャンルと比較して、がた落ち。が、メ
ジャー・レーベルが手放しつつあるなかVMEのようなレーベルも起こされ、
見えない部分では薄く裾野は広がっているようにも思える。若い演奏家も生ま
れている。とはいえ、前掲に名前を出した市原氏から聞いた話では、ギャラも
大分減ったと言っていた。ジャズ・イベントは、地方自治体が協賛していくつ
か開催されてはいるが、「ライブアンダーザスカイ」や山中湖畔でかつて行わ
れていた「マウント・フジ・ジャズ・フェスティバル」のような勢いのあるジ
ャズ・フェスは無くなってしまった。フジ・ロックやサマソニもいいがジャズ
を楽しむ人口がもっと増えて欲しい。マウント・フジ・ジャズ・フェスティバ
ルは02年に復活しているが、昨年再び中止となってしまった。

A.P.J.『e』 VGDBRZ0022 VME 3,150 4月8日発売
A.P.J.(Acoustic Progressive Jazz)
難波弘之
水野正敏
池長一美

なお、パトリック・モラーツのピアノ・ソロ・アルバム
『 RESONANCE 』 も5月には、同じくVMEより発売
超絶技巧の作品とのこと(難波さん談)

VME
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